映画『アシュラ』(2016年)感想(ネタバレ注意)|韓国映画の「熱気」と「質の高さ」を感じるノワール作品

アシュラ映画・ドラマ
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少し前になりますが、韓国映画で非常に話題になったノワール作品です。架空の町『アンナム市』を舞台に、一人の不良警官の壮絶な生きざまが描かれます。

ノワール映画鑑定士の管理人、韓国映画『アシュラ』に大満足の80点を贈呈いたします。いやぁ、おもしろいっすわ。

ただし、すごく面白い映画なんですがね、ホント、めちゃめちゃ血だらけ、血みどろです。そこまでせんでええがなというぐらい『過剰』気味の暴力描写が、ほぼ2時間以上にわたって続きます。事実この映画、乳首なしのR+15指定です。なので、残酷描写、暴力描写が苦手な方にはあんまりおすすめできません。

でもこの『過剰さ』が韓国映画の持っている大きな魅力であることも事実。どうしようもない、情けなさしかない男のもがき、あがき、そして絶望を表現するために、この『過剰な暴力」のもつ『よくわからん熱気』が、よく活かされている映画だと思いました。

映画『アシュラ』の魅力

パク市長とかいう「嫌~な悪魔」

この映画の話を端的に説明すると『悪魔が支配する地獄から脱出しようとする男が、悪魔を出し抜こうとしてもがき苦しむ話』といったところ。

主人公はチョン・ウソン演じるアンナム市警のハン・ドギョン刑事(カッコイイ)。余命いくばくもない妻を支えるため、アンナム市を牛耳るパク・ソンべ市長の手先となって、汚れ仕事を請け負っているという悪徳警官です。

このファン・ジョンミン演じるパク市長というのが、この映画世界を支配している『悪魔』で、ともかく卑怯、強欲、残忍と、すがすがしいまでの悪魔っぷりを発揮し続けます。

この下級悪魔感。(C)2016 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

だんだんこの下級悪魔感、道化師感がクセになってきて本当に醜悪でウザいので、中盤以降は「早く誰かこの悪魔を始末してくれー!!」と願いながらストーリーを追う感じです。

このパク市長、ともかくウザさのカタマリ。

なんかやらかしてピンチになるたびに周りの誰かを犠牲にして自分だけ生き残る、という外道ぶりがホントに徹底しているうえ、単体では戦闘力がほぼ0なのがポイント。

コイツは基本、汚れ仕事は部下にやらせて、都合が悪くなると容赦なく使い捨てるタイプなんですよ。しかも終始ずっとニヤニヤ笑顔で、表情がほぼないというところがっていうのが怖い。

この「悪」の造形が秀逸だなぁという印象です。例えて言うなら、最悪レベルにタチの悪い「ネズミ男」という感じ。

ストーリーとしては、このパク市長をパクろうとする(パクだけに)特捜検事グループがアンナム市に乗り込んでくるところから、展開がおもしろくなっていきます。

特捜がやってくると、あわれな「悪魔の猟犬」である主人公・ハン刑事は特捜に捕まってしまう。そして、冒頭で描かれるある事件をネタにゆすられてしまいます。

そこでハン刑事は、

「重罪で牢屋にぶち込まれたくなければ、パク市長の数々の犯罪に関する証拠を11月20日の期限までに持ってくるように」

と、クァク・ドウォン演じるキム・チャイン特捜検事から最終通告を受けるのでした。

さぁ、どうするハン刑事!?市長と特捜、どちらを裏切るのか、はたまた両方を手玉に取って生き残る方法を見つけるのか、ハン刑事にとって人生最大の戦いが始まる、というのがこの映画の大まかなプロットです。

「型にはまらないストーリー展開」「全体の熱量」「俳優や撮影レベルの高さ」

一言で韓国映画と言っても、それぞれの映画ごとに特徴は違いますし、ボクの大好きな監督だけでも、代表的なところで『息もできない』『嘆きのピエタ』キム・ギドク監督『殺人の追憶』ボン・ジュノ監督では全然個性やテーマ性が違います。

そうしたことを当然前提としたうえで、あえて「韓国映画」の特徴について、ボク的な私見を言ってみると、その最大の特徴は『過剰さ』。

ともかく、ちょっとやりすぎじゃねぇのか?と若干引くぐらい、表現が過剰気味です。

たとえば完全にノビてる奴に対して、とりあえず意味もなくもう2、3発ドツいておく、登場人物が3人とも泣きわめいて罵り合い続けている(しかも長ぇ)、といった「もうええがな」というくらい何かしつこいシーンって、韓流でよく見るでしょう?

これが悪い方に行くと、ストーリー構成とかがわけわかんなくなって収拾つかなくなるんですが、良いように転ぶと、よくわからん『熱気』とか、溢れ出る『謎のエネルギー』を画面いっぱいに生んでいくんですよねぇ。

この『熱気』がとても韓流作品の特徴だと考えるわけです。

映画『アシュラ』でも、特に主人公であるハン刑事のどうしようもない絶望感や焦燥感、やり場のない怒りといったものにその『熱気』が表れていて、決して器用ではない、あわれな男の生き様を、ストーリーの中で引き立たせていると思いました。

アシュラ

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さらに言うと、その『熱気』に乗ってストーリーを駆けぬけるあまり、ハリウッド式のエンタメ手法だとたぶん途中でボツになるんちゃうかという、全然観客に優しくないストーリー展開のまま突っ走っていく傾向もあります。

これが韓流映画やドラマ独特の後味の悪さや、ストーリーの予想外の展開といった意外性を生んでいて、このあたりが昨今の世界的な評価につながっているのかもしれません。

ストーリーの型が意外と自由なので、単純に表現の幅が広がるんですよ。

CGや演出方法なども、ハリウッド式の手法などをうまく取り入れて凄く洗練されてきていますし、俳優の演技も全体的に高いです(若手や韓流スターですらレベルは高い)。

この映画「アシュラ」でも、画面の緊張感や空気感、アクションシーンの派手さ、そしてテーマ性の重さなどが感じられて、韓流が世界的なエンタメへの道を歩んでいることがひしひしと感じられました(日本人としては若干悔しいんだけどね)。

ノワール作品としては王道

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話を『アシュラ』に戻すと、ノワール物としては超王道展開のストーリーで、対立構造自体も結構単純です。

完全にマフィア化している市長一派と、そこへ群がる利権団体、そしてそれを何とか壊滅したい特捜検事グループという構図は終始変わらず。

この両陣営と接触して綱渡りを強いられるハン刑事、そしてハン刑事に利用され、裏切られてしまう舎弟のソンミとの義兄弟関係といった、まぁノワール物としてはおなじみの要素てんこ盛りです。

何よりも主人公のハン刑事のキャラクター造形がノワール映画、ノワール小説好きのどストライクです。なにがいいかって、頭はきれるけど基本的に情けない奴で弱みだらけ、というところ。

ノワール物の主人公ってアホは問題外だが、万能じゃだめなんです。それだとアクション映画になっちゃうから(セガール師匠とかステイサム兄さんとか。まぁ、こっちも大好きなんですが)。

たいてい女とか子供、身体的、社会的なコンプレックス、性格的に犬くらいにしか好かれない(笑)みたいな弱点がないとおもしろくない。

それから「めちゃめちゃ幸せになりたいんだけど、心のどこかでそれは無理な望みだということを悟っている」といった『あきらめ』、これも大事。

ハン刑事を演じるチョン・ウソンは、ちょっとやせた西島秀俊みたいでとてもシブいので、ノワール主人公にふさわしい「カッコよさ」と「カッコ悪さ」の両方を体現できていると思います。とてもカッコイイです。

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韓国の検察についての予備知識

それはそうと、1つ気になったのは、検察の捜査です。映画観ているとアメリカ並みかそれ以上にめちゃめちゃ強い捜査権限を持っている気がしたので、少し調べてみました。

実は韓国って、もともと検察が警察の捜査に対してすら絶大な指揮権を持っていたそうなんです。しかも検察があまりにも強大な権力を濫用するので、ついに2018年、韓国政府は検察の捜査指揮権を廃止して、原則警察に捜査権を一任する改革合意をおこなったという経緯があります。

(参考:「韓国検察の捜査指揮権を廃止 一極集中から警察制度が日本に近づく?」 産経新聞2018年6月21日)

この合意文によれば今後、韓国の検察の捜査は「警察が送検後や公訴維持、汚職や経済事犯など一部の事件に限定される」(同記事)とのことで、これぐらいでやっと日本の検察と同じくらいの権能ってことですから、それまでどんだけ韓国の検察って権限持ってたんだよ、という話ですよね。

『アシュラ』で登場するキム・チャイン特捜検事率いる捜査チームも、盗聴は当然として平気で拷問するは、ニセの(というか正式な手続きをとっていない)公文書をちらつかせてくるわと、法の番人のくせに法を守る気ゼロという、かなり荒っぽい集団として出てきます。多少、誇張部分はあるにせよ、実際の韓国検察もかなり怖い組織だったということなんでしょうね。

映画『アシュラ』不満点もいくつか

基本的におもしろかった『アシュラ』ですが、少し気になる点もいくつか。主にストーリーラインに関してです。
ここからはネタバレが多いので、これからご覧になる方は注意してください。

思ったよりノープランな特捜検事

右端がキム検事。もっとしっかりして(C)2016 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

このキム・チャイン検事、最近では映画『哭声(コクソン)』などでもおなじみの名優クァク・ドウォンが演じているキャラで、とても狡猾で知的だけれども唐突に癇癪をおこしたりと、めちゃめちゃキャラ立ちしているのですが、中盤から後半にかけて、観客が思っていたよりも割とノープランで動いているオッサンであることが判明します(笑)。

検事さん、もうちょっと2重3重に手を打っとけよ、とも思いますし、突然あわてだしたりするので、「さっきの余裕は何だったんですか?」と部下でなくても叫びたくなること多数。

このキム検事がもうちょっと有能だったら、話の展開も変わっていただろうし、もしかしたらエンディングがグッドエンドへと分岐したかもしれないのになぁ(ゲーム脳でスミマセン)と思うわけです。とても残念なオッサンです。

ただ、この「キム検事、無能問題」は、エンディングへのストーリーの流れに関連しているので、仕方がないといえば仕方がない。

エンディングへの展開の是非

クライマックスからエンディングまでのストーリーですが、実は結構グダグダ感があります。なんか事件の解決への筋道が、映画の登場人物にも観客にも見えないんですよ。君ら一体どうやって決着付けるの?というのが、ほんとに映画的な意味だけではなく、事態の推移的にもわからん。そして劇中でも案の定、泥試合が展開されます。そう、まさに泥試合。

でもこの「先の見えない感じ」が、地獄でもがき苦しむ男たちの物語にふさわしいとも言えるのが、とてもやるせない。

映画の最後の最後で聴こえてくるハン刑事の独白、死体と血で埋め尽くされた斎場のまさに地獄のような現場、ソンミとハン刑事との哀しい乱闘、そしてそこへかかる美しいアコースティックギター、その全てが「何もかもがうまくいかない連中」の哀しみを表しているのでしょうね。

その辺りを表現したかったので、あえて観客の溜飲が下がる様な、ただ単にカタルシスが残るような展開にしなかったんのだろう、ということが理解できます。ただその結果、キム検事は無能になっちゃったと(苦笑)。

逆に言えば、キム検事がドクターキンブルを追うジェラード捜査官ばりの有能やったら、事件はもっとうまいこと解決しとったはずやんかぁ(泣)と、別の意味でやるせない気持ちになります。

まぁこの終盤の展開やエンディングの是非については好き嫌いがあるかな、という印象です。

まとめ

というわけで、韓国映画の傑作ノワール『アシュラ』、血だらけのシーンなどのバイオレンス要素が苦手、という方でなければ是非とも観てほしい映画です。

全体的にレベルが高く、しっかりと人物の心理やそれぞれの関係性も描いていて、なおかつ派手なアクションシーンやカーチェイスもありと、エンタメとしてもすごく優れています。そしてなにより韓国映画の持つ「熱気」、こざかしいストーリーのまとめ方や甘っちょろい観客の考えなど容赦なく粉砕していくそのパワフルさを、ぜひぜひ感じてほしいです。

あと蛇足ですが、韓国映画のギャングはだいたい斧を装備しているのはなんでしょうね(笑)。わりと身近な武器なんかな。

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